白い本/……とある蛙
 
白いページを横切る。
 ページを閉じて奥の古本屋の親父に尋ねる。
  「この本はだれが書いたものなの?」
 親父は眼鏡のフレームの上からじっとこちらをにらみ
  「私が書いている」「売り物ではない」などと勝手なことを言う。親父は突然歌い出した、本に関係する歌らしかった。しかし、それは親父の自分史のような内容で、錦華小から一橋中などと詰まらぬ経歴を歌っている。履歴書の歌か?
古本屋の北側に面した入り口からは秋の夕陽の釣瓶落ち、親父の眼鏡が朱色に染まり本も同色に染まったまま親父の手の中でひろげられていた。
 値段を尋ねると「時価」と答える。売り物ではないはずなのだが。
 気づくと店内
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