白い本/……とある蛙
 
イトのあたる一角にその本は存在した。
 背表紙は白、表題は不明、遠めに何か書いてあるように見えるが 手に取ると丸いアーチ状の膨らみを持った白い背表紙で、何も書いていない。ハードカバーの本には『ウンタライフマッカ』という本の名前とどこかで聞き覚えのある著者名、『ロウソク出版』という出版社名とよく読み取れない定価が印字されている。印刷ではなく印字だ。
 中を開くと細かい文字がびっしりで、老眼鏡の必要な自分には猫の毛玉のようでふわふわ掴み処が無く、読めない。クシャミをした拍子に二ページ分の毛玉が飛んで真っ白になってしまった。『流行性感冒につき休養中』という文字と『注射を打ちに病院へ』という文字は白い
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