アイロン、アイロン台としわのあるシャツ/はるな
すっかりしわの無くなった夫のシャツたち。いたいたしく白く、そっけなく、つめたいシャツたち。洗い立てでは、夫の匂いさえしない。
このほんの数年で、致死量の幸福を舐めてしまったのだ。生も死も、仕方のないことであるなら、わたしはせめて、夫に清潔な服を着せたい。でもそうして夫が服を着て出て行ってしまえば、すぐに少女がかえってきてしまう。わたしは一人では何も、成り立つことができない。
アイロン台と同じだ。
いくら完成された佇まいであっても、いくらぴんと布を張られていても、あれは、しわくちゃの衣服がなければ意味をなさない。悲しみを食べる獏のようだ。
おそろしいことは―みんなだれかのアイロン台
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