ロマネスクの果て/済谷川蛍
顔をそらし、腕で口元を隠して赤くなった。僕はまだ野村くんがこちらを向いているかどうか気になったが、自分を見ていてくれればそれはそれで嬉しいに違いないと思い、再び野村くんのほうを向いた。すると野村くんは片肘をつき、まるで今までずっと僕の照れている様子を冷静に観察していたかのように僕を見ていたので、僕は反射的に机に顔をふせ、なぜかこみあげる笑いを必死に抑えた。顔をあげたが、まだ野村くんが頬杖をついて自分を見ているような気がして、黒板のほうをじっと見つめた。
国語の最初の授業では自己紹介を行うことになっていた。新入生たちは高校を出たばかりで、社会人のような堂々とした態度は身についていない。名前や年齢
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