ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
年齢、住所といった基本的な個人情報に好きな映画やバンドなどを1つ2つ付け加えてお辞儀をし、拍手の中そそくさと自分の席へ帰っていく。これでは駄目なのだ、と僕は思った。大学生というのは、いや、大学というのは、奇人や怪人が居る場所でなければ。いよいよ僕の出番になった。教卓に両手をつき、礼をする。そして、チョークを持った。そんなことをしたのは僕が初めてなので教室がどよっとざわめく。教授は余裕の笑みを浮かべている。黒板に文字を書き始めた。
 「私は生まれついた瞬間、額に凶と揮毫された」
 こう書き、僕は自己紹介を始めた。
 「この漢字はきごうと読みます。僕は自分をこのような人間だと思っています。敬愛す
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