どれもすべてたったひとつの生/ホロウ・シカエルボク
 
く。そうすると、ほんの一瞬だけ生身の肉体は死体の気分になる。デス。デス、デス、デス。秒針が時を刻む音に合わせて何度か呟いてみた。その響きはひとつ残らず薄闇の中に飲み込まれてゆく。ここは何処だ。そればかりを意識は問いかけてくる。所在を問うことは存在を問うことだ。ここは何処だ?激しいブレーキの音が聞こえる。衝突音。間に合わなかったらしい。呻き声だ、若い男のようだ。いくつかのドアが開かれる。クソ寒いのにご苦労なことだ。救急車は呼んだか、しっかりしろ。そんな言葉が飛び交う。野次馬たちが自分たちの立ち位置を正当化するためにそんな台詞を口にするのだ。例え誰かが天に召されたところで、やつらにしてみればただの酒の
[次のページ]
戻る   Point(2)