どれもすべてたったひとつの生/ホロウ・シカエルボク
 
秒が通り過ぎてゆく。油性マジックでぞんざいに塗り潰されるような今日は均一に黒く、重い。カーステレオをフルボリュームに上げた車が信号待ちをする。光と希望に溢れたJ‐POP。それは神の教えと同じ。無責任に光に満ちている。ウンザリするほど闇を見つめ続けた人間でなければ本当の眩しさを語ることは出来ないはずさ。いざとなると逃げるような連中が光だけを語るんだ。時計を見る。まだ五分しか経っていない。その間に随分なものを肉体に詰め込まれたような気がする。不意に人生は、忘れたものの塊で出来ているような気になる。読み方を忘れた文字。開き方を忘れた扉。書き方を忘れた文章。そうしたものの塊が次々と混じりあってまだらでいび
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