御伽話その3〜俺はプリンス〜/永乃ゆち
 




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月も出ない真っ暗な晩に

俺はお嬢さんに会いに行った。

俺が逃がしてやる!

いや、いっそのこと一緒に逃げよう!

手を差し出した俺に

お嬢さんはゆっくりと首を振った。

そして静かにこう言った。

「ありがとう。

あなたが好きよ。」

それから少し微笑んで

俺の手をそっと押し戻した。





「ニャーッ」

暗闇に紛れる俺の真っ黒い毛並みを
確かめるように撫でたお嬢さんは
ぽつりとこう言った。

「あなた(猫)になりたかった・・・。」

そうだ。

俺は。




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