猫の森であいましょう/済谷川蛍
 
フォレスト」。別れた彼女と聖夜を過ごそうと思っていた店。森で猫が毛づくろいしている形に象られたシンボリックな銀色のプレートはおそらく店のオーナーが特別に注文したものだ。両親のアパート経営に携わったときの経験で、こういう店の拘りに気づくようになった。待合席からNが猫のように寄ってきて「仕事帰りで化粧を直す時間もなかった」と言った。僕は彼女に横に座るように頼んだ。隣から彼女のいい匂いがした。水の入ったグラスに軽く口づけしてメニューを開き、トゥードッグスを注文した。
 僕は酒を飲んで軽くため息をつき「彼女に振られた」と言うと、「ええっ」とNが驚きの声をあげた。僕は彼女から見える自分の横顔を意識した寂し
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