聖域なき未来に少女がみた世界/済谷川蛍
ゃ言ってねえで早く買ってこい」
深夜の2時にコンビニに行って酒と菓子を買ってこいと命令したのは15歳の娘で、携帯で起こされたのは彼女の父親だった。
「さっさと買ってこいっつーのがわからねえのか」
「わーかったよ」
娘の声に包丁のように脅かされ、財布と車のカギを握って父親はふらついた足取りで階段を降りた。飼い犬のボンが玄関までついてきて、父親は頭をなでてやった。車のエンジンをかけ、用心のためにドアをロックし、ハンドルを握って虚空を見つめたまま何度もした自問自答を繰り返す。
「あいつには思いやりというものがないのだろうか。女の性質はどこにいったんだ。前にボンといっしょに深夜の散歩を
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