リュウグウノツカイ/済谷川蛍
 
が見えた。私は風呂の入り口を通り過ぎ、近くにあったトイレで用を足した。トイレを出ると急いで廊下を戻り、浴場ののれんをくぐった。ちょうどガラス扉が閉まり、擦りガラスのせいで少女の裸体はぼやけていたが、エロティックな黒髪に胸が高鳴った。衣服を脱いでいき、ロッカーに詰め込んだ。阿部和重の「グランド・フィナーレ」はロリコンの話だったな、全然覚えてないけど、と上気した頭の中でどうでもいいことを口走った。扉を開けると温かい湯気に包まれた。初めて来た客がするような仕草で浴場を眺め回し少女の姿を探した。見当たらなかったので、とりあえず一番近くの湯船に浸かって少女が目の前を歩くのを待った。しかしなかなか現れず、子供
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