リュウグウノツカイ/済谷川蛍
もう一人の私の分身を作り出し「これらの作品に共通することは何でしょう?」と問題を出した。私が得意げに「芥川賞受賞作」と答えると、分身は役目を終えて消えた。ここのオーナーは小説好きなのだろう。私はどの本にも手をつけず自分の鞄の中から永山則夫の『捨て子ごっこ』を取りだしてしおりの挟まれたページを開いた。もう終盤だったので読み終えてしまいたかったのだ。
ほどなく読み終わったあと問題が生じた。私の腹の中には本屋などで店員に自分は万引き犯だと思われているんじゃないかという疑心暗鬼を起こさせる厄介な虫が巣食っていた。それに似たようなことがここで起こった。つまり、ここで本を読み終えて鞄に入れると、それを傍か
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