リュウグウノツカイ/済谷川蛍
願った。
畳の上で眠っていた。窓を見ると細かな擦り傷がたくさん入ったような小雨が降っており、巨大な橋のかかった海峡を貨物船がゆっくりと通過している。延々と雨が吸い込まれ融けていく底知れない鉛色の海は私を不安にさせた。悪夢を見たのはこの海のせいだと思った。新聞をめくる音が寝起きの頭に新鮮味をもって響いた。右手首に数珠をはめた丸刈りの中年男性があぐらをかいて、畳の上に広げた新聞を読んでいる。海峡沿いに建てられたホテルは、外の世界の憂鬱さと対照的に濁りのない静謐な空間に守られていた。
子供の頃、親の運転する車の後部座席の窓から、数秒間だけこの場末のホテルを見ることが出来た。そろそろだ、と思って身
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