リュウグウノツカイ/済谷川蛍
て身を乗り出して窓に張り付き目を見張ると、はたして竜宮城のような黄緑色の奇妙な建物が現れ、そして一瞬で遠ざかるのだった。このホテルは幼い頃の私に、この世のものではないような、一生立ちいることが出来ないような、おとぎ話のような世界を空想させた。私は片道1時間かけて服の買い物をし、無理をして映画を観てしまったせいで帰りが遅くなり、眠気と一時の気の迷いに誘われてホテルの駐車場へハンドルを回したのだった。
畳の敷かれた休憩所には本棚が置いてあり、それはただ気休めのために置いただけという風ではない内容量だった。地元の作家の中原中也や金子みすゞ、種田山頭火のコーナーが特別に設けられていた。地元の作家ではな
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