を/salco
 
し じゃ物足りない。何べん書いて
もあたしは飽きませんでした。下の丸みが重みを湛えていて、そこからシュ
ッ、とこう、空へ跳ね上がる処が楽しいですな。あたしはそれで、書き順を
変えちまいました。チョンチョン、シュッです。キッカケの拍子木に、仕上
げは助六の見得の感じでね。


 そんなある日、「ぅお」と言いながら先生が黒板に を と大書きしたン
です。
 何だい、変な字。
 と最初は思っただけですが、見ている内に何かこう、心がざわついて参り
ましてね。腹を押さえて身構えてるみてえな、何か見上げて何か言いかけて
る男の横顔みてえな、キョリキョリしたその線を手元の帳面に書きますと
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