を/salco
すと、
紙にしれーっと染み込んで、それから浮き上がって見えるンです。じっと見
つめておりましても、他の字と違って、色や音が一向現われません。
何度も黒板のと見比べましたよ。すると、白墨で書いたのより自分が鉛筆
で描いた方が薄気味悪く、始末に困るのがわかりました。
だってあなた、鉛筆色じゃないンです。漆黒で、こんな大きさなのに、白
い帳面の全体を支配しちまったンですから。温度もありません。ただそこに
ぬうと突っ立っている。
こいつは魔だ。
慌てて帳面を伏せました。
心臓が早鐘のようで、それが首筋でも打つもンですから、体が冷たくこわ
ばりましてね。消しごむで挑む勇気もあ
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