遺書にはならない足跡/セグメント
掛かりを覚えている心になってしまっている。この家にいる限り、その要因を引き出した上階の人間のことを忘れることは出来ないだろう。希釈しても、一回の性行為の音で全ては無駄になる。少し希釈し、少し回復し、生きて行こうとする、作家になろうとする私の人生の全部と言っても過言ではない程のものが無に還される。それどころか神経が悪化してしまう。コップに水を注ぐように、神経は元には戻らない。
私が死にたくなる気持ちは嘘ではないだろう。日々の疲弊も同様だ。だが、本当に私は死にたいのか? 作家になるという、夢などという言葉では言い尽くせない熱情を放棄してまで誰もいない静寂を求めたいのか。仮に、環境がとても静かだっ
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