きりん/salco
 
はしかし母にとってはどうだったか。もの好きなあぶれ者同士の腐
れ縁をなすり合うだけの生活の中で子を四人生し、狎合と齟齬の行き暮れに
猛々しく怒り狂う夫は、不器用な母の意図ではなかったが。
 なぜ父は、聖母のように子を慈しみながら至高の視座を持ち得なかったの
だろうか。ただ一人のつまらぬ女の為にさえ。
 抱いた女を、男はなぜ背に負う代りに面罵し殴るのだろう。狎褻の痴態を
重ね合った生活史が所有の錯覚を惹起するのであれ、しなを作ってしなだれ
かかる可愛さも卑劣さも持ち合わさなかった母であれ、不和は夫婦という他
人同士に不可避の変遷・変性であれ、夫の暴力は妻のせいではない。
 小国民の
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