きりん/salco
 

 幼時は殊にきりんが好きだった。
 不思議な角と頸と模様を持つ、魔法に満ちたその生きものは、優しいまな
ざしで至高の場所から見る世界をも知っていた筈だった。父の肩車もそれと
同様だった。そこからの一望こそはきりんの経験に他ならない。そこは私の
玉座でもあった。
 父の頭に掴まって精一杯右手を伸ばすと、若草色のフェンス越しに屈み込
んだきりんは握り締めた枝葉ではなく、私の顔を舐めた。その黒く長い舌に
はびっくりしたが、こちらの大好きな気持を認めて特別扱いをしてくれたよ
うな気がして、嬉しさと誇らしさで一杯になったものだ。父の肩車とは、例
えばそんな場所だった。

 善き父はし
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