待子さん/salco
 
れて見えた。咄嗟に身をかわ
し反対側へ逃がれて早足のまま振り返れば、見通しの良い緩やかなカーブ
の先にも姿がない。
 俄かに怖くなった私はそれから帰宅の途が気鬱になり、賑やかな駅前を
逸れて我が家へ至る、通行人を支脈に篩い分けて行く道路の先々へ目を凝
らすようになった。駅前に駐輪場がないので一時期はバスも利用したが、
バス停からの暗い裏道に一層の恐怖が募るのだ。

「それって幽霊だよ。季節もいいし」 
 奥歯にアマルガムをぎゅうぎゅう詰めながら福田先生が言うものだか
ら、余計に恐ろしくなった。
「わはか」
 起き直って口をゆすぐのももどかしく、
「だって冬も夕方も出るのよ
[次のページ]
戻る   Point(3)