祭り囃子/村上 和
お面屋さんを通り過ぎた
額の左側にドラえもんをつけた真っ赤な頬のアンパンマンは
ひょっとこみたいな顔で
指をくわえて林檎飴に見とれている
+
浴衣については一言もなかった
可愛い下駄についても当然
鼻緒が切れてもなにもしてくれないんだろうね
思いながら神社の境内で
女はかかとを浮かせている
+
この暑い時期に
熱い鉄板の前に立たせて
バイト代も出ないなんて勘弁して欲しいと愚痴りながら
休憩中に人気のない川辺で
今は亡き蛍のように火を灯している半被姿は
携帯灰皿にその灯りを潰して
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