さくらぞめ/亜樹
 
にあるの?何処かしら。南の方?一年中暖かい処なら、きっとずっと桜が咲いているのでしょう?」
「うん。うん……そうだね。本で読んだけれど、向こうは海が碧いそうだよ。桜の薄紅色が映えて、さぞかし綺麗だろうね」
 随分久方ぶりに沙名が嬉しそうな顔をしていたから、僕も釣られる様に楽しくなった。碧い海に桜の花が舞う情景を想像する。其れはこの上も無く美しく、儚い夢幻の風景だ。
平均気温が高い南国では桜は咲かないと、僕は知っているのだけれど。
 沙名はそんなことを気にはしない。彼女はただ、真摯に碧い海の、美しい桜を思っている。
 そんな沙名が僕は好きだった。本当に本当に好きだった。
 けれど其れは『
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