ざくろ/亜樹
 
、たきは知らない。
 ただ一度、幼い時分、その実を食べてひどく叱られたことだけは覚えている。
 食べられもせぬ実なら、ならねば良いのにと、理不尽に感じたことは覚えているのだが、その味だけは少しも覚えていない。
 けれど、多分それはひどくまずかったからだろう。
 何しろあれは、人の味がするのだそうから。
 それを知ったとき、たきはひどく気味悪がって、てておやに切ってもらうようにせがんだのだが、験が悪いと取り合ってもらえなかった。
 今にして思えば、単に金子がなかったというだけのことなのだろう。
 昔気質の父に、庭師の真似事をして木を切るなどという真似ができようはずもなかった。
 職人
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