眠り姫/salco
 
を差し入れ、もう一方で肩を抱き、ゆっくりゆっくり起こ
す。頭がのけぞると、唇の間に前歯が覗いた。硬直さえしていない! 
絹糸のような毛髪が私の耳元で芳しく囁いた。微かに眉根を寄せて「う
ーん」と寝起きの呻きを、この見事な喉が今にも洩らすのではないか。
 果たして! 直角に抱き起こす刹那、その口から僅かな息を彼女は洩
らしたのだ。
「君! やっぱり。今度はゆっくり息を吸うのだ。心配しないで、さあ
吸ってごらん」
 励ましながら背中を擦り、腕を擦る。だが息を吸わない。
「どうした、頑張れ」
 何とした事か、その拍子にがっくり俯いてしまった。起こし過ぎたの
だ。
 慌てて額を起こ
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