眠り姫/salco
 
起こし気道を確保した。ギックリ腰の懸念も忘れて棺の中
から抱え上げ(ああ、何と甘美な重量であった事か)、足元の道具を蹴
散らして地面にそっと横たえた。それで人工呼吸に屈み込んだ時だ、死
相を見たのは。
 肌がこわばり色を失って骨相にへばり付き、黄ばんだこめかみに紫斑
が浮き出る、窪んだ眼窩に眼球が没して行く。飛びのいた私の目の前
で、肌は土気色から緑色へ、服地に滲み出る腐汁の茶色い広がりにつれ
て溶けた肉体は萎み、濡れた毛髪は脱落して後退し、どす黒い顔、胸
元、腕、足に細かい畝状の皺が蠢きながら伝播して行く。
「ゲッ!」
 突然がくりと開いた口から濃緑色のガスを吐き出した。たち
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