藤を見に / ****年不明/小野 一縷
 


合浦の浜に藤を見に行くのが好きだって
ばあちゃん 僕にお菓子を買ってくれて
二人してバスに揺られて 行ったよね

桜も沢山な公園だけれど
その頃は いつも人が ごったがえしで
僕は酔っ払いとか うるさくて嫌だった

静かなベンチに 二人して 柔らかく垂れた藤の下で
ソフトクリームを食べたよね
あの時は
髪もまだ黒かった
膝もまだ丈夫だった
耳もまだ達者だったよね
二十年も 随分と昔のことだけれど
今のばあちゃんは
髪は真っ白だし 膝は痛むし 耳も遠いし

かなりの 大声で話さないと なにも聞こえない
だけれど
父さんとか 母さんとか 親戚だとか

[次のページ]
戻る   Point(6)