【批評祭参加作品】「へんてこな作家」という親愛の情/石川敬大
誠実な『裏切り』のおかげ」であった。
*
もう一度、話を、冒頭の『変身』にもどそう。
「ショッキングな出だしのせいで、カフカの『変身』は虫になった男の物語と思われがちだが、その変身自体は最初の一行で終わっている。むしろ主人公が日常からズレ落ちたとたんにはじまる、べつの変身が問題だ。時間の変身、家族の変身、親子や血のつながりの変身。すべてがみるまに変わっていく」。つまり、家族の日常は次のように飛躍的に変化を遂げた。「音楽家志望だった妹が店の売り子になった。女中まかせだった母親が家事と内職をはじめる。ノラクラしていて、新聞を読むのが仕事だった父親は銀行の守衛になり
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(7)