【批評祭参加作品】「へんてこな作家」という親愛の情/石川敬大
なり、金ボタンつきの制服を着て出かけていく」。結局、「『変身』の主人公は、人間存在の比喩ともいえる。ある朝、虫になった男は、どのように読み換えてもいいだろう。ある日、リストラされて行き所のなくなった人、不治の病が判明した人、老の境をこえた人。そして、その家族の物語」と。それにしても次のアイロニーは痛烈である。つまり、虫になった男の死を確認した後、「家族三人は久しぶりに遠出をして、たのしく今後のもくろみを話し合った」という記述は。われわれは、いやわたしはだろうか、『変身』を読み違えていたのではないだろうかと思う。カフカが描きたかったのは、虫になった男の物語なのではなく、そのことによって巻き起こされる
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