【批評祭参加作品】「へんてこな作家」という親愛の情/石川敬大
 
のために利用した。恋人もいたし婚約者もいた。同じ女性との二度の婚約、二度の結婚解消は、心の揺れそのものの顕在化であっただろう。しかし、「書くことを邪魔立てしかねないものは、やはり拒否するしかない」というのが、カフカが出した結婚に対する結論であった。有能な官吏であり、つまり一般的な社会人であったカフカにとって、書く行為に生涯を捧げることは、反面辛い結論であったこともまた間違いない事実だろう。

 それなのに、四十一年の生涯の終りに当たり、「ノート類をすべて焼き捨てるように遺言して」「書きさしにしたまま死んでしまった」のはどうしてだろうか。まさに、「文学史に残ったのは、遺言を守らなかった友人の誠実
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