【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
ある。
そして時代的には、現在より20年前の話であるのに、たしかにいくつかの時代を象徴する舞台装置が出てはくるものの、現代の話として読み変えても驚くほど違和感は感じられなかった。いや、その後の90年代においてさえも一億総中流意識という「幻想」の名残にそれが依然としてカモフラージュされていたためか、あるいはそれからの新自由主義の展開、端的にいえば「いたみをともなう」一連の熱狂のあとに、社会の表面に、確実に、視認可能な形でようやく具体的に表出してきた「格差」というものを、このときすでに作者は、この海炭市という地方都市を例として提示し顕在化させている。
NHKが発端となった「無縁社会」あるい
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