【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
るいは朝日新聞社がいうところの「孤族」を予測したかのような、いや、当時その語はなくとも、雇用や教育、医療・福祉や、娯楽においてさえも見放された位置にいる人々は実際に存在していたのだし、社会的に徹底的に孤立した層はむかしも今も、増減しながら確実に存在している。そして現在のほうがむしろ注目されていると感じられる。その意味でこの小説は「あたらしい」と言えるだろう。
ある挿話での3歳の娘を連れて海炭市に越してきた夫婦。引っ越し先で近所の地元の人と顔を合わせたならば、すこしはなにか会話が生まれそうなものであるが、不審の目で見られるだけで、そのようなことは起こらない。ただ黙って、配送が遅れている荷物の
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