【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
受し得た人々の娯楽やライフスタイルなどがマスメディアを通じて流行を起こし、それが地方へと波及するという現象も起きていたと思う。
この時期はだれもが、あるいは多少無理してでも、消費活動を盛んにし、畢竟金づかいが荒かった場合も多かっただろうが、この『海炭市叙景』ではそのような行動や言動をとる人物は、皆無ではないにしても、非常にまれである。作品成立の経緯を知らずとも、冒頭の地形・情景描写で容易に予想がつくが、函館市がモデルとなっている「海炭市」は、おそろしく疲弊した典型的な一地方都市として存在し、そこで生活する人々もバブルの恩恵をまったく受けていない。描かれる大半が、いわゆる社会的底辺層の人々である
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