【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
どかしくもならない。むしろゆっくりじっくり読み進めたい文章。
ただ、抑制の効いた、しずかな小説である。
冷静な文体ではあるが、冷酷ではない文章。登場人物によりそうでもなく突きはなすでもなく、絶妙の立ち位置から作者は物語を紡いでいる、という印象をもった。
作品の時代背景は1980年代後半の日本、ということでいいだろう。ちょうどバブル経済の絶頂期、あるいは作品の着想と構想期間に鑑みれば、それにいたる過渡期あたり、ともとらえられる。いずれにせよ経済はこれからも右肩上がりで成長を続け、わたしたちの生活はこれまでよりもっとよくなるという期待感に満ち、とくに大都市圏での、経済成長を十分に享受し
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(4)