【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
 
出しているものの今夏までは問題なく使用できる「別荘」に滞在する。朝食はシリアルやフルーツ、チーズにフランスパン、コーヒー、調理道具はステンレスの包丁(鋼ではない)、パヴェーゼを読み、あっさり寝てくれる女の子が近所の別の別荘におり、ジム・ジャームッシュの映画を見に行くのを楽しみにし、私は寡聞にして知らなかったが、オスカー・ディナードというジャズピアニストのレコードをかけてくれるジャズ喫茶に入り浸る、とこれでもかとばかりの記号の奔流、つまりあきらかに都会なれして比較的富裕層に属している、そんな青年である。
 そして文体は相対的にとてもかるい。今までの重苦しさをこれからの夏の光が明るくしてくれるとまで
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