【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
 
2章になると、それも消失し、各個の物語がひとつひとつ孤立してしまっているような印象をうける。それが作者の明確な意図であったかどうかは今となっては定かではないし、逆にそれぞれで独立して完結しているために完成度が高い、ととる見方も成立するだろう。
 だが私には、作者はこの2章で完結、とはいえないまでも、これである程度の区切りがついたと認識していたのではないかと思えてならない。
 その根拠は第2章の9話、つまり最後の18番目の物語である「2-9 しずかな若者」のあまりの他の話との相違である。ここに登場する青年は、大学の夏期休暇を海炭市で過ごすために「首都」から「赤のシビック」を運転して、売りには出し
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