【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
 
「モノ」だけを見てしまうという、ありがちな傾向にあるのであるが、それを否定するのではなく、それはそういうものとして、そのままその人物を描いている。現実に会えば、(個人的には)結構いやなタイプの人物であると私は思うのだが、すくなくとも周囲に同僚のいる職場の席で洗面所にも行かず大口を開けて歯の治療のための薬を脱脂綿につけてピンセットで慎重に丁寧に塗るような人はずいぶんとにがてなのだけれども、そのようなネガティブな感情を読みながら起こさせない、文章の、よさがある。
 そして、このまま「衛生的」生活の一幕が語られて終わるかと思いきや、終盤のあざやかな視点の変換によって、それまでつむがれてきた話に別の光を
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