【批評祭参加作品】となりに、近くにいる人は簡単には理解しえない。 佐藤泰志『海炭市叙景』のこと/mizu K
 
物のことを気にしながら寒風の中立ちつくす。あまりの寒さに一杯引っかけるために飲み屋に入ってようやく挨拶程度の会話が成立する。
 夫婦であっても、恋人同士であっても、どこか感情を押しかくす必要があり、思惑があり、フラストレーションを内包している場合もある。しかしそれは、どこにもぶつけることができず、だれかと共有したり愚痴をいいあうこともせず、会話にも齟齬がうまれるから、どこか諦念で打ち消そうとするか、または自身の内面に澱のように沈んでいく。
 そしてもっとも近くにいる人は、その、近くにいるがゆえにその感情や意識を伝達することが逆説的にできない、できづらい、あるいはそのためにすぐとなりにいる近しい
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