【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
の方が顕わだろう。たとえばこの時期の作品で発表しようとしてされなかった未刊詩篇『熱情的なフーガ』の四連「このロコゝ宮殿の/脚を断て。」と六連「大理石の噴泉の/唇を噛め。」に度重なる推敲の跡があり(大岡)、四連は「このロコゝ風の殿堂をこぼて」「この殿堂をこぼて啖らえ」と変化した後に決定稿となり、六連は「あでやかなる大理石の噴泉をとめよ」「噴泉を吸え」「噴泉を涸らせ」と推敲してより身体的な動きにシフトさせているところなど、対自的に収斂してしまう富永の詩の特徴がよく表れている。富永が逝く一年前の大正十三年九月に関東大震災が起こり、同じころ「赤旗」が創刊、有島武郎が心中事件を起こす。世間は遅れてきたヨーロ
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