【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
惜むのか、俺たちはきよらかな光の発見に
 心ざす身ではないのか、――季節の上に死滅する
 人々からは遠く離れて。  (「別れ」冒頭部より)
 
 つぎに『秋の悲歎』も引用してみよう。両者の相似と相違はより明らかだろう。

  私は透明な秋の薄暮の中に墜ちる。戦慄は去つ
 た。道路のあらゆる直線が甦る。あれらのこんも
 りとした貪婪な樹々さへも闇を招いてはゐない。
  私はたゞ微かに煙を挙げる私のパイプによつて
 のみ生きる。あの、ほつそりとした白陶土製のか
 の女の頸に、私は千の静かな接吻をも惜しみはし
 ない。       (「秋の悲歎」冒頭部より)

 わたしは何も
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