【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
信とも不安ともつかない苛立ちが表われていて、オリジナルの詩を試み、ボードレールの詩を翻訳していたものの、絵画への情熱も捨てきれずにどこへ発表するというあてもないまま焦燥感ばかりを募らせていた富永と比べ、小林は東大仏文在学中で三田派の同人誌にも参加、小説『一つの脳髄』を発表して注目される存在であった。その小林から齎されたランボーの『地獄の季節』の詩篇『別れ』は「この詩を大きな紙に書き、下宿の壁に貼りつけて毎日眺めてゐる」(『研究 富永太郎伝』)ほど決定的な事件であり、この詩を咀嚼し独自の色味を加えて成ったのが『秋の悲歎』であった。

  もう秋か。――それにしても、何故に、永遠の
 太陽を惜む
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