【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
無声慟哭』『青森挽歌』といったリリック、『原体剣舞連』のリズム感、『小岩井牧場』の物語性などに感興が湧かなかったことも、時代に殉死する文学者の臨界点を示す側面を露呈していると指摘できるのかもしれない。大正十年二十歳のとき、富永は正岡宛の手紙にパルナシアンへの共感を語っている。この時期はボードレールの翻訳を始めた頃に相当し、ボードレリアンでボヘミアン、さらにパルナシアン的ですらあったことは、富永という個体の内部で矛盾しなかっただろうか。それとも富永の嗜好(=志向)を示し、現地点から踏み出す方位を指していたと解釈すべきなのだろうか。朔太郎の「竹」、賢治の「アラベスク」、フランス近代詩人らの訳語の語彙の
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