【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
おぢやつた。
(中略)
へちまのやうにかすかすの
悪魔の伯父さん、おぢやつたおぢやつた。
この「おぢやつたおぢやつた」の俗謡的な表現は富永には決してなかったものであり、「実生活への愛があつてもよかつた」と中也が評したように、富永の表現には実生活と乖離した面があった。それは富永がストイックで倫理的であることによって垂直性を獲得したのに比して、中也の詩は言ってみれば水平性の詩であったと言えるのかもしれず、北川が指摘するように「常人より低い眼の位置」にあって、それゆえにアクチュアリティを獲得できているとするなら、富永にはそれはすっぽりと抜け落ちているところだと言えるのかもしれな
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