【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
連目より)
 
 大正時代末の富永以前に、これほどアクチュアルな詩を書いた詩人が日本にいただろうか。同時代を見回したとき、北原白秋をステップにして萩原朔太郎が大正六年に『月に吠える』を刊行、一時は詩のエクリチュールにおける「言語革命」家でさえあったが、やがて彼は文語定型詩へと退却していった。中也の場合はどうだろうか、『秋の悲歎』に影響を受けたと言われる韻文詩の『秋の愁嘆』があるのでつぎに引いてみよう。

 あゝ、秋が来た
 眼に琺瑯の涙沁む。
 あゝ、秋が来た
 胸に舞踏の終らぬうちに
 もうまた秋が、おぢやつたおぢやつた。
 野辺を 野辺を 畑を 町を
 人達を蹂躙に秋がおぢ
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