【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
けても、必要以上の群集を喚
び起すことが必要であつた。さういふ日々の禁厭
が私の上に立てる音は不吉であつた。
私は幾日も悲しい夢を見つゞけながら街を歩い
た。濃い群集は常に私の頭の上で蠢めいてゐた。
時々、飾窓の中にある駝鳥の羽根附のボンネツト
や、洋服屋の店先にせり出してゐる、髪の毛や睫
毛を植ゑられた蝋人形や、人間の手で造られては
ならないほど滑らかに磨かれた象牙細工や、紅く
彩られた巨大な豚の丸焼きなどが無作法に私を呼
び覚ました。私は目醒め、それから、また無抵抗
に濃緑色の夢の中に墜ちて行つた。
(『群集』一連目
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