【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
一方、これらの訳詩に比して富永はどうだっただろうか。ボードレールの散文詩『港』を以下に引いてみよう。

  港は人生の闘に疲れた魂には快い住家である。
 空の広大無辺、雲の動揺する建築、海の変りやす
 い色彩、燈台の煌き、これらのものは眼をば決し
 て疲らせることなくして、楽しませるに恰好な不
 可思議な色眼鏡である。調子よく波に揺られてゐ
 る索具の一杯ついた船の花車な姿は、魂の中にリ
 ズムと美とに対する鑑識を保つのに役立つもので
 ある。とりわけ、そこには、出発したり到着した
 りする人々や、欲望する力や、旅をしたり金持に
 ならうとする願ひを未だ失はぬ人々のあらゆる運
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