【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
者意識の喪失、相手の女に裏切られた敗北感など二重三重に屈折した思いを抱えたことから、失われた女への思いは終生のテーマとなり、また永住しようとして渡海した上海で罹患し死を抱え込むことともなった。だが、私生活の三面記事的な色メガネで富永の詩を読み直して何が明らかになるだろう。事実は表現の背後に隠れ、作品を覆う雰囲気となってたゆたうだけだ。結局、詩のエクリチュールの要諦は、なにを書くかではなくどう表現するかなのではないだろうか。この時代にあって富永の作品の飛びぬけた表現レベルの高さ、内面を言語化する天才的な言語感は圧倒的だ。たとえそれがサンボリズムから派生した、漢語調の抜けきれない生硬なものであったとし
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