This Love Is Not Wrong/捨て彦
 
も、汚されたら困る」
「ちょっとだけ手拭かせてね」
そう言うと陽子さんは適当にページを開いて、その中から1ページ破って、サンドウィッチで汚れた手を拭いた。
「あぁ…。ティッシュあるのに…」
「この紙で拭きたかったの。」
こういうとき、陽子さんはいつも無表情だ。いつも何気ない。彼女は僕を苛めるつもりなんか毛頭ない。生きていくうえで、至って自然な行動で、僕へなめらかな危害を与える。
まるで蟻を知らない間に踏み潰している人間のように。蚊を叩いて潰すように。そこには悪意なんて少しも存在しない。
「勉強できなくなるじゃないか」
「他のページがあるでしょ?何いってんの」
「それ返せよ」

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