中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
事は無かった。
礼拝堂のパイプオルガンが朝の新鮮な空気を食べながら、バロック音楽を自ら奏で始めた頃、私は一階の調理場で珈琲を飲み終え、王女の間へ上がり、王女に此の城を出、森を出て、私の世界とは一体どのようなものなのか、実際に此の目で確かめに行き、先輩の自殺を食い止めに行く、と告げて、白亜の巨城を、森を出た。
幾重もの光のカーテン捲り上げ、ようやく外界の世界にも目が慣れ始めると、視界に飛び込んで来たのは、現実世界と相も変わらない、田園風景であった。ただ、現実世界と異なる事といえば、其れ等無数の田園には水が敷き詰められていて、其の中で一定間隔に植えられた緑色の幼い米の苗が飛び出ている、とい
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