中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
全力で廊下を走り、螺旋階段を駆け上がり、王女の間へと無我夢中で向かった。そして私は王女の間の扉の前で、荒い呼吸を整え、扉をゆっくりと開いた。
室内が薄暗く感じるのは、空が雲に覆われたからだろうか、私の立てた扉を開ける物音に、反射的に反応して背後を振り返ったのは、紛れも無く、五年前、いや、十一年前に睡眠薬自殺した私の大学の先輩に瓜二つの、美しき王女であった。私は王女の大きな二つの瞳を確かに見据えると、胸を突き出す様に彼女の元へ駆け出し、彼女を抱き締めた。
「…御久し振りです、王女……」
「ようやく逢えましたね……」
私と王女は顔を見合わせ、彼女の瞳から涙が溢れて頬を伝った瞬間、長い接吻を
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)