中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
たいなものがあるのですか?」
私は女性医師の質問を聴いた直後、胸が激しく痛み、無意識に自分の眉間に皺を寄せそうになったのを、力を込めて辛うじて止めた。
「…いいえ、ありません」
「そうですか。もし御気分が悪くなったら、遠慮せずに此方に電話下さいね。それではまた」
女性医師は微笑みを浮かべて診察室を出る私を見送った。
薬局で精神薬を受け取った帰り(今日は八月の第三土曜日であった)、そのまま帰宅せずに、地下鉄の終点まで乗り続けると、今度は市電に乗り継ぎ、そのまま田園風景が広がる土地の終着駅まで行き、降りた。
「有り難う御座いました」
電車の中には、三十分程前から、乗客は私一人
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